体外受精(IVF)とは?
「体外」という名が示しているように、卵子と精子を体外に取り出してシャーレの中で受精させ、数日間培養した受精卵を子宮の中に戻す治療法です。比較的手軽にチャレンジできるタイミング法と人工授精が「一般不妊治療」と呼ばれるのに対して、高度な技術を必要とする体外受精や顕微授精は、「高度生殖医療(ART)」と呼ばれます。
女性の両方の卵管が詰まっている場合や、男性の精子に重度の異常がある場合は、体内で精子と卵子が出会うことが難しいため、タイミング法、人工授精といった一般不妊治療を行わず、体外受精からスタートします。具体的には下記のようなケースが該当します。また一般不妊治療で妊娠しなかったカップルの次のステップにも位置付けられています。
【男性側】
- 重度の乏精子症および精子無力症
- 射精障害、性交障害(ED、逆行性射精など)
【女性側】
- 排卵障害
- 卵管閉塞(卵管が詰まっている状態)
- 重度の子宮内膜症
- 精子の運動能力や生殖能力を低下させる抗精子抗体を持っている。
どんな治療をするの?
体外受精は、卵巣を刺激して卵胞を育てる「卵巣刺激」、卵子を体外に取り出す「採卵」、卵子と精子をシャーレの中で受精させる「媒精」、受精卵を培養する「胚培養」、受精卵を子宮内に戻す「胚移植(ET)」の5つのプロセスで進められます。
卵子を取る前に自然に排卵が起きてしまうことがないよう、体外受精の前の生理周期から卵巣の機能を一時的にストップする働きがある「GnRHアゴニスト」という点鼻薬(鼻の中にスプレーするタイプの薬)を使用することもあります。
【体外受精の流れ】
卵巣刺激はその人にもっとも合った方法を選択
不妊治療は、患者さん1人ひとりの体質や年齢、要望などによってその内容が違ってくるまさに「オーダーメイド」の医療。体外受精のスタートとなる卵巣刺激も複数ある方法の中から、その患者さんにもっとも適した方法が選択されます。
卵巣刺激のおもな方法は、GnRHアゴニストを使う「ロング法」と「ショート法」、GnRHアンタゴニストを使う「アンタゴニスト法」、飲み薬と最低限の注射で穏やかに卵巣を刺激する「自然周期法」があります。一般的に卵巣刺激に対する反応がいい人にはロング法、卵巣機能が低下気味の人や高齢の人にはショート法やアンタゴニスト法、自然周期法が用いられる傾向があるようです。また薬物による卵巣刺激を一切行わないまったくの自然の状態で採卵する方法もあります。
卵巣刺激の主な方法【ロング法】
体外受精を行う前の生理周期の高温期中ごろからGnRHアゴニスト(商品名:スプレキュア、ナサニール、ブセレキュア)の使用を開始。1日3回鼻の穴にスプレーして自然に排卵が起きるのを抑制します。体外受精を行う周期の生理が始まって数日後からhMGの注射による卵巣の刺激を始め、卵胞がほどよく成熟した時点で採卵日を決定。採卵の36時間前にhCGを注射して卵胞の成熟を促したうえで採卵を行います。
GnRHアゴニストの使用が長期間にわたることが「ロング法」の名称の由来です。
【ショート法】
ロング法に比べGnRHアゴニストの使用期間が短い点が特徴です。体外受精を行う周期の生理初日~3日目にGnRHアゴニストを使い始め、それとほぼ同時に注射が始まります。その後の経過はロング法と変わりません。
【アンタゴニスト法】
比較的新しい方法で、GnRHアゴニストの代わりにGnRHアンタゴニスト(注射剤、商品名:セトロタイド、ガニレリックス)を使います。GnRHアンタゴニストは効き目が約30時間と長く、採卵前に3回(1日1回3日間)を目安に注射することで高い排卵抑制効果を発揮します。
アンタゴニスト法の場合は体外受精の周期の生理が始まってから3日目ごろからhMGの注射をスタート。卵胞の大きさが14ミリまで育ったところでGnRHアンタゴニストの注射も始めます。その後のプロセスはGnRHアゴニストを使った場合と同じで、採卵36時間前にhGCを注射し、採卵に向かいます。
ロング法に比べ、卵巣過剰刺激症候群(OHSS※)の発生リスクが低い点も大きなメリットです。
【自然周期法】
体外受精の周期の生理3日目からクロミフェン製剤(商品名:クロミッド、セロフェン)を飲み始め、生理8日目くらいから1日おきにhMGを注射します。
1回に採卵できる卵子は1~3個と少なめですが、身体的負担は軽い方法といえます。ただし、排卵抑制を行わないので、採卵前に自然に排卵してしまうかもしれないというデメリットもあります。
【卵巣刺激~採卵のスケジュールの一例】
体外受精と併用される技術
卵巣刺激を行うと多い時は10個以上の受精卵を確保できることがありますが、多胎妊娠(双子以上の妊娠)のリスクを避けるため、日本産婦人科学会は1度に子宮に戻せる受精卵の数を最大2個までと定めています(※)。この場合、余った状態のいい受精卵は凍結保存し、次回の不妊治療の際に融かして利用することが可能です(凍結融解胚移植)。また、採卵まではしたものの、子宮内の環境が整わず着床が難しいとみられるケースでも、いったん胚を凍結し、コンディションが整った周期に胚移植を行うことができます。
体外受精で採卵する周期には、卵巣刺激のために排卵誘発剤を使用する影響でホルモンが不自然な状態になり、子宮内膜が上手く育たないことがあります。そのため受精卵の着床率は、採卵した周期にそのまま胚移植する場合よりも、凍結胚での移植の方が高くなります。また凍結胚で生まれた赤ちゃんに先天異常が発生する確率は自然妊娠の場合と変わらないことがわかっており、安全性も確立された技術です。
そのほか数度の体外受精でも妊娠しなかった場合は、受精卵を着床寸前の状態である「胚盤胞」まで培養してから胚移植する「胚盤胞移植」、卵子を包んでいる膜に小さな傷をつけて着床を助ける「ふ化補助(アシステッドハッチング)」などを実施し、妊娠率アップを目指すこともあります。
※卵巣過剰刺激症候群(OHSS):排卵誘発剤で卵巣を刺激することによって卵巣が大きく腫れたり、腹水や胸水がたまったりする病気。
※日本産婦人科学会の会告は胚移植で戻す胚の数について、35歳未満は原則1個、2回以上妊娠しない場合や35歳以上の場合は2個までと定めています。
