自然の状態で、1回の生理周期に排卵する卵子の数は1個ですが、不妊治療では妊娠の確率を上げるために、1度に複数の卵子を育てて排卵させます。この時使われるのが「排卵誘発剤」と呼ばれる薬です。
どんな種類があるの?
排卵誘発剤には、飲み薬と注射薬があります。どちらを使うかは、治療法や患者さんのホルモン値などによっても違ってきますが、飲み薬の方が効き目がおだやかであるため、まず飲み薬から始め、それで結果がでなかった場合は、注射薬に切りかえることが多いようです。注射薬は効き目が強い分、排卵誘発剤の副作用である「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」の発生リスクも高くなりますが、医師はOHSSを発症することがないよう、血液中のホルモン値の測定や超音波検査で卵巣の状態を確認しながら慎重に注射の種類や投与量を調整していきますので、あまり過剰に心配する必要はありません。排卵誘発剤による副作用としては、このほかにも双子以上を妊娠する「多胎」がありますが、この発生率も注射薬の方が高くなります。
【飲み薬(錠剤)】- クロミフェン(商品名:クロミッド、セロフェンなど)、シクロフェニル(商品名:セキソビット)・・・錠剤タイプの飲み薬。卵巣の中にある卵胞は、「卵胞刺激ホルモン(FSH)」の刺激で成長を始めます。これらの薬は、脳に働きかけ、FSHの分泌を促すことによって、卵胞を育てていきます。おだやかな効き目であるため、副作用が比較的少ない点が特徴です。おもな副作用としては、頭痛、目のかすみなど。長期間使用すると、子宮頸管粘液の分泌量が少なくなったり、子宮内膜が薄くなったりすることがあります。多胎率は4~6%と低め。
注射剤は卵巣を直接刺激して卵胞を育てます。そのため飲み薬よりも高い排卵誘発効果がありますが、それと同時に副作用の発生リスクも高くなります。注射剤は次の2種類に分けることができます。
- hMG(商品名:ヒュメゴン、パーゴグリーン、ゴナドリールなど)・・・FSHと排卵の命令を出す「黄体化ホルモン(LH)」を含んだ製剤。FSHとLHの比率は製品によって異なり、治療によって使い分けられます。重い排卵障害やクロミフェンで十分な効果が得られなかった場合、体外受精や顕微授精でたくさんの卵子を必要とする場合などに使います。hMGの投与によって卵巣のなかで複数の卵胞が一斉に大きくなるため、お腹の痛みや張りなどの副作用が現れることがあり、ひどくなると卵巣過剰刺激症候群を起こすことがあります。多胎率は約20%とクロミフェンよりも高め。
- FSH(商品名:フェルティノームP、フォリルモンP、フォリスチムなど)・・・hMGと同じ使い方をします。hMGとの違いは、LHをほとんど含まないか、全く含んでいない点(製品によって違います)。副作用としては、hMG同様、卵巣過剰刺激症候群や多胎が発生する可能性があります(多胎率は約20%)。ただし、卵巣過剰刺激症候群の発生はLHによって促されるため、もともと卵巣過剰刺激症候群を起こしやすい多嚢胞性卵巣症候群(※)がある人にはFSHの方が有効とされています。
hCG(商品名:プロファシー、プレグニール、HCGモチダなど)・・・卵胞が十分な大きさに育つと、LHの分泌量が増加し(=LHサージ)、これを合図に排卵が起こります。このLHの働きをするのが、hCGです。排卵誘発剤とセットで使われ、hCGを注射すると36~40時間後に排卵が起こります。ただし、hMGやFSHの副作用で卵巣が腫れている時にhCGを投与すると、卵巣過剰刺激症候群が重症化することがあるので、その際は投与を止め、採卵自体をキャンセルすることがあります。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)とは?
hMGやFSHといった注射薬タイプの排卵誘発剤の刺激で、卵巣が大きく腫れる副作用。クロミフェンなどの飲み薬で発生することはまれです。初期症状としてはお腹の張り、下腹部痛、吐き気などがみられ、たいていは経過観察をするうちに改善しますが、重症化すると腹水や胸水がたまり、最悪の場合、脳梗塞を起こすことがありますので、思い当たる症状がある時は速やかに医師に連絡し、診察を受けることが重要になります。とくに35歳以下で卵巣刺激に対する反応がいい人、多嚢胞性卵巣症候群がある人、育った卵胞の数が20以上になった場合は、発生するリスクが高いといわれています。
※多嚢胞性卵巣症候群(PCOS):排卵障害のひとつで、卵巣の中で卵胞は成熟しているのに卵巣の外側の膜が固いために排卵できない病気。
