自らの不妊治療経験を患者さんの希望に恵愛病院「生殖医療センター」
生殖医療・内視鏡・周産期"すべての分野の専門医"が治療
「私自身も不妊症患者であり、不育症患者です」
「私たち夫婦は不妊症患者であり、不育症患者なんです」と話すのは、2011年4月にオープンする恵愛病院「生殖医療センター」のセンター長・林博先生と奥さんで看護師の美友さん。
恵愛病院は、小児科を併設し妊娠から出産・育児までをトータルにサポートする産科専門病院として地域で信頼を集め、周産期の症例数も全国トップクラス。今や埼玉県の周産期医療を担う拠点であり、2011年で開設40周年を迎えます。3月には新築棟が完成、そのメインとなるのが「生殖医療センター」。体外受精胚移植をはじめとした高度生殖補助医療(ART)、および腹腔鏡などの内視鏡手術を提供する最先端の複合生殖医療(不妊治療・不育治療)施設です。
生殖医療・内視鏡・周産期のすべての分野の専門医である林先生が構想から8年を経て誕生させたという同センター。当初は、まさかご自身が治療を始めることになるとは思いもしなかったそうです。
3度の流産、そして5度の顕微授精で妊娠
「自らの困難な症例であった体験 をいかし、新たな希望につなげたい」
「8年前に婚約して、これから不妊クリニックをやっていくと聞いていましたが、自分達がこうなるとは...」と美友さん。体外受精をしてその治療で成功しなかった時のつらさ、ようやく授かった我が子の流産。治療をしてきた側が一転、6年前から治療を受ける側となったご夫婦は「言葉にできない」ほどの絶望感に何度も押しつぶされそうに。
下を向いて歩くことが増え、空を見上げると目に映る空も悲しく見える。看護師でも ある美友さんは「院内で子供の声が聞こえるのがうらやましかったし、つらかった」と当時を振り返ります。
長い長い治療の日々を過ごし、ご夫妻が新たな生命を授かったのは5度目の顕微授精。
「本当に大変でした。世の中から後ろ指をさされるような思いも経験しました」。何も悪いことをしていないのに感じたみじめな気持ち、世間の厳しさ。しかも家業が産婦人科。でもだからこそ「センターを通して、非常に困難な症例で子供を授かった私たちの経験を世の中に伝えていきたいと考えた」(林先生)。
そうして、これまで培った生殖医療の技術と「自らの不妊治療や不育症治療経験を新たな希望につなげていきたい」という思いが先生を奮い立たせ、長年の夢であった「生殖医療センター」のオープンへとつながったといいます。
ゴールは妊娠ではなく健康な赤ちゃんを産むこと
併設の病院で妊娠、分娩後のフォロー体制も万全
「生殖医療センター」は不妊・不育治療を経験した医師および看護師(林先生ご夫婦)、不妊カウンセラーにより開設されており、質の高い複合的な不妊治療・不育治療が受けられるのが特徴。不妊治療・不育治療には腹腔鏡や子宮鏡手術が必要になることが多々ありますが、同センターでは内視鏡技術認定医による質の高い複合的な不妊治療・不育治療を受けることができます。
また治療の最終目的を「妊娠ではなく健康な赤ちゃんを産み、育てること」とし、希望によってはすぐ隣の恵愛病院で分娩まで任せることができる、というのも同センターならでは。恵愛病院には小児科もあるため、分娩後のフォロー体制も整っています。※
「不妊治療クリニックには入院施設がないこともありますが、当センターは手術も体外受精もできます。治療を担当する先生とスタッフが術前、術中、術後も診られるのが強みです」(林先生)。先生が手術前から手術後の計画を立て、手術に立ち会った看護婦が入院中もケアを行うため、患者さんがどんな状態でこれからどうしていきたいかを常に把握できる環境になっています。
※重度の合併症や未熟児での出産が予想される場合、当院では分娩できません。その場合、高次医療機関へ紹介させていただく場合があります
女性だけでなく男性にも配慮した院内設計 患者さん同士の交流を深めてもらう機会も提供
不妊・不育治療では「気持ちが言えない」「相談できない」というストレスも多いため、ご自身が治療を受けていて傷ついたことや、改善してほしいと思ったことをすべてセンターに反映しているという林先生と美友さん。
隣接する恵愛病院と入口をわけて妊婦さんとすれ違わない配慮や、スタッフの会話の応対から制服まで、自らが患者として経験した目線を大切にしているといいます。「診察室は個室。内診台もエコーも別のお部屋にしているのでプライバシーが守られます。回復室も個室にしました」(美友さん)。
そして、患者さんと向き合うカウンセリングルームは、一番眺めがいい場所に。何ヶ所かカウンセリングを受けた 美友さんが癒されたという部屋をイメージし、庭園が見え、噴水の水の音を聞きながら、素になって何でも話せる空間にしています。「私自身、患者として感じたのが、カウンセリングルームが事務的な感じがしたんです。密室で固い椅子に座ってカウンセラーと面と向かって涙をながしているような。そういう雰囲気をなくしたかった」(美友さん)。
また、精子を採取する採精室 など男性への配慮も。「不妊治療というと女性が重視されて、採精室の環境など男性のことは二の次になっているのが現状です。当センターの採精室は、ドアを開けていきなり部屋があるのではなく前室があってから個室に入るように設計し、足が伸ばせるソファを設置。防音や換気にもこだわってご主人も来院しやすい環境を整えています」(林先生)。
「妊娠、治療できる期間は限られているため、できることをサポートいきたい」と話す林先生。同センターでは患者専用の「ARTホール」があり、体外受精などの知識を深める不妊学級も開催し患者さん同士の交流を深めてもらう機会を提供する予定。今後も、今もまだ不妊治療・不育治療を続けているご夫婦だからこそできる環境づくりを続けていくそうです。
「私から治療法のお勧めはしていきますが、出来る限り患者さまのご希望に合わせて治療法を選択していきますので不安や疑問があれば遠慮なくおっしゃってください。患者さまを家族だと思って治療法を決定するよう心がけています」(林先生)。
「あるとき思ったんです。不妊治療を続けていて、妊娠しやすい人と自分の体が同じわけではないのだから、比べているのはおかしいな、って。あの人と私の体は違うので私にあった治療をして自分の生活を充実することも大事にしようと。そんな自分の経験をふまえて、患者さんが気持ちを吐きだし、安心できる環境をつくっていきます」(美友さん)。